科学技術を利用して、人々の生活を幸せで豊かなものにする
2013年度ヒューマンコミュニケーショングループ運営委員長 黒岩 眞吾(千葉大学)
電子情報通信学会には、「基礎・境界」「通信」「エレクトロニクス」「情報・システム」の4つの工学を指向したソサエティがあります。工学の目的は『科学 技術を利用して、人々の生活を幸せで豊かなものにする』ことにあります。しかし、「科学技術」と「人々の生活」の間には工学者に思いもよらない山谷が存在 しています。そのため、科学技術を人々の生活に役立てていくためには、多くの分野の方の知恵を結集し、山にはトンネルを、谷には橋を架けていく必要があり ます。そのために約20年前に生まれたグループが「ヒューマンコミュニケーショングループ(HCG)」です。学会のHPを見ると5番目のソサエティのよう に描かれていますが、実際には、4つのソサエティを横断し、かつ、心理学、社会学、医学、看護学、家政学など様々な分野からのメンバーが『人々の生活を幸 せで豊かなものにする』ために集い語り合う場としてHCGは存在しています。
私の専門とする工学分野では、技術の新規性を求めがちです。しかし、人々の生活に焦点をあてた場合、必ずしも新技術が必要なわけではありません。 技術はあるのに誰もやらない、困っている人がいるのに誰もそれを問題として取り上げない、有効性を実験で示しにくい研究はしない・・・などなど、誰かがやらなくてはいけないことが数多く見過ごされているように感じます。私自身、技術者として、新規性に囚われ研究を続けてきた一人なのですが、目から鱗が落ちる講演に出会いました。2011年のTED-TALK、Mick Ebelingの“The invention that unlocked a locked-in artist”という7分のプレゼンです。筋萎縮性側索硬化症(ALS)で眼球しか動かせなくなったアーティスト(TEMPT)のために、映像プロデューサーが人々の力を集め、眼球運動のみで壁に絵や文字を描ける装置eyeWriterをゲーム機のカメラやその辺のパーツ店で買ってきた部品で作り上げた話です。そのプレゼンを見て涙がこぼれました(私のしがない文章力では到底伝えきれないので、是非TEDのサイトで動画を見てください)。この装置はオープンソースで公開されています。そして、TEMPTは2011年4月LAの現代美術館のストリートアート展に出品を果たします。眼球以外動かすことができないにもかかわらず・・・。Mickのプレゼンは、こう締めくくられます。
If not now, then when?
If not me, then who?
そこに困っている人たちがいる。彼らを援助できる技術があり、それをできる自分がいる。新規性がない、論文にならない・・・そんなことはやらない理由にはならないと、改めて感じさせられました。
私は、HCGが『人々の生活を幸せで豊かなものにする』ための集まりであって欲しいと考えています。幸いHCGの研究会やシンポジウムには、電子情報通信学会の会員だけでなく、心理学、社会学、医学、看護学、家政学、教育の現場や介護の現場等、様々な分野から、研究者だけでなく日々人と接するお仕事をされている方々にもご参加いただき、様々な視点から人間を中心に据えた技術に関する白熱した議論を行っていただいております。電子情報通信学会の会員の方には、是非ともHCGの集いに参加され、これらの議論に加わっていただくとともに、皆さんの所属するソサエティに持ち帰っていただき、『人間中心』の 視点から改めてご自身の電子情報通信技術を考えていただきたく思います。そして、「今そこで困っている人のために、何かできることはないか?」との問いかけを、まずは自分に、そして周りの人々に投げかけ、幸せのムーブメントを起こしていただければ、何よりも嬉しく思います。
なお、電子情報通信学会会員の皆様は、こちらのページから書類をダウンロードいただき、HCGにチェックを入れて電子情報通信学会会員課に送っていただければ、追加料金なしでHCGにご参加いただけます。また、下記の各研究会や今年度、道後温泉で開催いたしますHCGシンポジウムには、非会員の方も自由に参加いただけますので、是非ご参加いただければと思います。