ヒューマンコミュニケーション賞規程にもとづき、慎重な選考を重ねた結果、以下の計6件の発表に平成17年度HC賞を授与することに決定いたしました。
■ HCS研究会
1. 松田昌史・松下光範(NTT)・苗村健(東大) (HCS2005-34)
「分散認知環境における集団課題達成-Lumisight Tableを用いた迷路ゲーム実験-」
【選考理由等】
4人集団によるゲーム実験をLumisight Tableを持ちいることによって、条件操作などがうまく組み込まれており、集団内コミュニケーションの研究に有用であることを示している(特に、参加者に応じて与える情報、条件を操作できる点)。今後の応用が検討できる研究である。
2. 田村和弘(理研) (HCS2004-48)
「より効果的な歩行者道案内システムの実現に向けて」
【選考理由等】
人間の空間認知特性の実験をベースとした分析によって,有用性の高い歩行者道案内システムの検討を行なっている.特に環境情報(ランドマーク)を利用することで地図読みにおける整列効果をなくそうとする試みは興味深く,またその有用性に可能性が見出せる.このような基礎的研究を通して,人間の認知特性と合致したインタフェース設計への指針を得ることは意義深い.
■ HIP研究会
1. 谷本貴頌(筑波大)・星野聖(筑波大/JST)(HIP2004-102)
「自己増殖型SOMを用いた画像データベースからの手指形状の実時間推定」
【選考理由等】
ヒトの手指形状推定で,あらかじめ高次局所自己相関関数による特徴抽出をおこなった特徴量と測定した角度データを特徴データとしてデータベースに保存し,角度データによる自己組織化を図ったデータベースを構築した.さらに,推定時には,画像から得られた特徴量との距離を算出し,高速,高精度に,手指形状の推定が可能なシステムを実現した.
2. 藤田尚文・入江隆・中西秀男・大田学(高知大)(HIP2005-91)
「やわらかさに関する感性情報処理」
【選考理由等】
物理計測によるやわらかさは平衡弾性係数と緩和弾性係数を用いたMaxwellmodelによる表眼が可能である.一方,手で物に触れる場合は「かたさ」の次元と「弾力」の次元がある.これらの物理量と心理量の関係で,「かたさ」「弾力」は平衡弾性係数の寄与が大きく,「かたさ」には緩和弾性係数が正の寄与をし,「弾力」には負の寄与をしていることを詳細な実験を行い,明らかにした.
■ MVE研究会
1. 崔 雄(立命館大)・橋本直己(東工大)・八村広三郎(立命館大)・佐藤誠(東工大)
「力覚と視覚提示機能を備えたリアクティブモーションキャプチャシステムによるキャラクターモーション生成」
【選考理由等】
ユーザが全身を使って行動する状態下で、負荷のある状態をコントロールしながらその行動解析を行う「リアクティブモーションキャプチャ」という概念が仮想現実感の新しい応用を切り拓くものであり、しかも将来的に発展性がある点が高い評価を受けた。
■ WIT研究会
1. 内藤 正美(東京女子大), 道岡 洋子(鹿児島大), 小澤 邦昭, 伊藤 嘉敏,木口雅史, 大坂 浩(日立), 金澤 恒雄(エクセル オブメカトロニクス) (WIT2004-80)
「脳血量変化に基づく完全Locked-in状態ALS患者の意思判定」
【選考理由等】
決定的なコミュニケーション手段が無い重度のALS患者の支援方法として、無侵襲な前頭葉の脳血流量の変動を近赤外光の吸収量の差異から判定する試みである。手法自体も新規性に富んでおり、また従来手法に比べて高い判別精度が得られている。有用性、完成度ともに優れた論文であり、今後の研究の発展も期待できるため。
平成18年3月10日 HCG委員長 乾 敏郎