20年後のヒューマンコミュニケーショングループ
2014年度ヒューマンコミュニケーショングループ運営委員長 中村 裕一(京都大学)
ヒューマンコミュニケーショングループ(HCG)はその名前の通り,人のコミュニケーションをテーマとした学会組織です.人と情報システムや社会とのかかわりあいやその基礎となる人間自身の性質や文化を研究対象とする研究会の集合体となっています.
4つの第一種研究会(ヒューマンコミュニケーション基礎,ヒューマン情報処理,マルチメディア・仮想環境基礎,福祉情報工学)が活発に活動を続ける一方,4つの第二種研究会(発達障害支援,ヒューマンプローブ,食メディア,情報の認知と行動),2つの第三種研究会(ヴァーバル・ノンヴァーバル・コミュニケーション,人と場所のつながりデザイン)もそれぞれ人にかかわるユニークな研究を小回りの効く方法で展開しています.
いずれの研究会も,その活動が心理,生理,医療,人文,社会,言語,教育など,幅広い範囲にかかわっているため,電子情報通信学会の外の方々と積極的に交流しながら活動を進めてきました.また,他のソサイエティに属する研究会との掛け持ちで活動されている方も多くいます.私はマルチメディア・仮想環境基礎研究会の専門委員長を務めましたが,それ以前から情報・システムソサイエティのパターン認識・メディア理解研究会にお世話になっておりました.同じ学会内で共通の興味を持ちながら,HCGがきっかけで初めて知り合った方々も多くいます.
HCGの大きな特色は,このような学際的,横断的な交流の場を
提供していることですが,それだけではなく,まだ研究分野や研究トピックになりきっていない萌芽的な研究を熱心に議論したり,分野として育てていく気風があるところも特長となっています.第二種・第三種の研究会の比率が大きいことにもそれが現れています.毎年各研究会が一堂に会するHCGシンポジウムも徐々に参加者を増やし,2013年は200名以上に集まって頂きました.
2014年以降も様々な企画を交えながら,ヒューマンコミュニケーションに関する多くの人が情報交換をする場として開催する予定です.
20年前に先達の先見によって生まれたHCGは,社会の動きや研究者のニーズにマッチし,研究サロンとして成功を収めてきたと言えるでしょう.このような組織をより持続・発展させたいとの自然な要求がある一方で,時代に合わせて変わらなければならないという使命もあります.現在,電子情報通信学会では,学会のあり方に対する議論が活発に行われており,HCGもその渦中にあります.20年後にHCGが今の形で存続していると自信を持って言い切れる人はいないでしょう.しかし,これは悲観的な話ではなく,逆に,良い方向に向かって変わって行く気概があれば,名前や形式はどうあれ,良い結果が自然についてくるものと考えています.
今年度は,HCGの将来へ向けた重要な課題として,学会論文誌の中でHCGが担当する特集号を増やすことを検討しています.
HCGの外からも論文を投稿してもらえるように,また,多くの方に購読してもらえるように,魅力ある内容を揃えることもそれに付随する課題です.そのためには,萌芽的な研究が論文になるまで皆で育てていくことも必要となってくるでしょう.それには,上であげたHCGの特色と気風がきっと良い方向に働いてくれるものと期待しております.
20年後はHCGという名前ではないかもしれませんが,伝統を保ちつつも,日本の学会の置かれた厳しい状況を打破するような組織となること,またそのために変わっていける組織となることを目指しております.運営委員会一同が努力をして取り組みたいと思いますので,HCGの発展に向けて多くの皆様からのご支援ご協力をよろしくお願いします.