運営委員長のご挨拶
2019年度ヒューマンコミュニケーショングループ運営委員長 苗村 健(東京大学)
2019年度ヒューマンコミュニケーショングループ(HCG)運営委員長を仰せつかりました東京大学の苗村健です。もともとは,画像通信の先の未来として,空間を共有するような通信システムを夢見て,カメラを多数並べた通信システムの研究をしていました。これが,カメラに写った空間を理解するAIの研究と,その空間をリアルに提示するVRの研究へと繋がっていきました。最近では,AIで適度に支援しながら人々に創発的な議論を促すことを目標に,複数人での場の共有を可能にするVR技術の研究などに取り組んでいます。あらためて考えてみると,人々への動機付けや対話の促進などのヒューマンコミュニケーションの視点が,今後のメディア技術の進むべき方向を指し示していることを実感します。HCGは,まさにそのような未来を担う場であり,運営委員長として微力ながら貢献できることに,たいへん光栄かつ嬉しく思っています。
私は現在,東京大学の情報学環・学際情報学府という組織に属しています。ここは,東大中のさまざまな分野から教員が集い,環をなすことで,学際的な
研究領域を創出していこうという志を持った場です。私自身は,情報理工学系研究科電子情報学専攻に本籍を置きながら,学内留学のような気分でこの環の中に混ぜてもらっています。ここに居て感じるのは,「学際とは手段であって目的ではない」という側面と,「予定調和でない偶発的なイノベーションに学際が欠かせない」という側面のバランスの難しさです。混ぜることを目的化してしまうとどこに向かっているのか見失いがちというリスクがある一方で,混ぜてみないと分からないところに抗し難い魅力があるのも事実です。国内外の多様
な人材が集うHCGには,目的に沿った学際の実践と,学際によって生み出されるイノベーションの両輪を期待しています。
このため,運営委員長として今年度は3つの活動を進めることを考えています。1つ目は,HCG内での連携です。さまざまな学術分野の文化が交錯するHCGにおいては,相互理解を深めることが肝要であり,HCGシンポジウムでの企画などを通じて実りある交流の場を提供していきたいと考えています。2つ目は,HCG研究基盤の整備です。2016年度に設置された常設編集委員会の活動を推進し,他では分野外であると弾かれてしまうようなイノベーティブな研究の拠り所となれればと考えています。3つ目は,信学会本体への貢献です。近年,学会の存在意義の議論や,学術分野への経済原理介入の是非などに頭を抱えることが多くなってきました。時代の変化にしなやかに対応しつつも,「これは面白い」と訴えられるHCGの魅力を発信することが,信学会全体の魅力向上へと繋がると信じています。
皆さまにとって,なくてはならないHCGであり続けるために,運営委員会のメンバーと協力して活動を行っていきます。ご協力の程よろしくお願い致します。