講評:
坂本・髙木 (2023/5)では,謝罪発話行為の枠組みやポライトネスに関するモデルから,条件付き謝罪の有する言語的特徴への分析を試みた.当研究では,坂本・髙木 (2023/5)の条件付き謝罪の不誠実性の分析を,実際の会話文を用いて量的に評価し分析結果が妥当であることを検証した.当該論文では、言語学に基づく謝罪発話行為の質的分析が行われ、その妥当性が量的にも検証される形となっている。日常で良く見聞きして違和感を覚える言語的現象について、専門的な研究内容を言語学研究者でなくとも分かりやすく説明している点,発表においても非常に明確に論点が整理されている点が評価できる.以上より,多角的な視点からのコミュニケーション特性の理解を目指すHCS研究会の趣旨に合った論文だと評価し,HC賞にふさわしい論文として推薦する.
講評:
コロナ禍の社会状況から発想を得,商品の中身の使用感を試さずとも外観から中身の印象をイメージできるような,視覚と触覚を組合せたパッケージのデザインを,印象評価調査および実際にパッケージをデザインし,評価と提案を行っている.視触覚に着目し,外観からハンドクリームの中身を想像してもらうというテーマ設定の面白さ,研究課題としての新規性を評価する意見,および調査だけに終わらず,パッケージを実際に作成した点を評価する意見が多くみられた.印象調査から実際のパッケージデザインに至るまでの有効性の高い(実質的かつ実用的な)研究であることは多いに評価でき,HC賞にふさわしい研究であると考え推薦する.
講評:
深田らは先行研究でフラッシュラグ効果について、運動刺激の前・後方に提示されるフラッシュで非対称な位置のズレが生じることを発見し、本論文では時空間特性を詳細に検討した。この研究によりフラッシュが運動刺激の前方と後方に生じる場合、速度の効果が異なっており、質的に異なるメカニズムが関与していることが示された。テーマ・手法とも堅実であり、心理物理学実験による現象の詳細な測定は心理現象の発生機序の解明につながることを示している。
講評:
本研究は、HCI分野で注目されてはいるものの応用研究事例が少ない多感覚情報提示技術のうち、鼻腔内化学感覚提示技術の新しい実装例として、化学物質による嗅覚刺激と鼻腔外からの電気刺激による鼻腔内化学感覚提示手法を応用したインタフェースを提示したものです。本研究では鼻部の左右から鼻腔内化学感覚を提示するシステムを構築、メタバース内での進路方向の誘導など実用的な場面での活用を想定し、VR空間内の分かれ道で被験者を刺激提示側に誘導できるかどうかを検証し、感覚提示システムによる痛みの軽減が課題であるものの、その有効性を示し、また、VR空間への注意の引きつけや没入感に寄与する可能性を示唆しました。本研究は学術的に興味深いだけでなく、数少ない多感覚情報提示技術の応用事例であり、今後の実用化やさらなる発展が大いに期待されることから、HC賞候補に推薦いたします。
講評:
本研究は、鏡像空間と実空間を連続的に映像が移動する超鏡空中像という概念を提案し、超鏡空中像における独自のインタラクションを設計し、実空間と鏡像空間におけるポインティングの精度比較を行っています。鏡像空間と実空間で像がシームレスに移動するための光学系はシンプルかつ妥当であり、物理的な指と虚像の指の両方を利用したインタラクションは独自性の高いものです。超鏡空中像の概念を体験できるコンテンツも実装しており、完成度の面でも優れた研究です。実験では、様々な奥行きに結像した空中像をポインティングするタスクにおいて、奥行き方向の精度とタスク実行時間を指標とし、実空間と鏡像空間におけるポインティングの差異を考察しています。当日の研究会でも活発な議論が行われ、多くの関心を集めた発表の一つでした。今後の発展も十分に期待できるため、本研究をHC賞候補へ推薦します。
講評:
神経難病患者のコミュニケーション支援を目的とした口形の画像認識手法の提案と、その性能を検証した研究である。新しい機械学習モデルであるViT を導入した口形認識手法の提案のほか、従来研究にはない規模の実験データを収集し、実用的な観点から様々な評価や分析が行われており、新規性および有用性が高く評価された。神経難病患者には症例の差異や進行による変化など、口形画像の個人差以外にも多様な変動要因が存在する一方で、データ収集の困難さがある。著者らの研究グループでは、長期間に及ぶデータ収集に取り組み、現実的、実用的な観点から綿密な評価実験と分析がなされている。継続的な取り組みの進展も認められることから、今後の発展や展開が大いに期待される。以上のことから、福祉情報工学分野の発展に資する研究発表としてHC 賞候補に推薦する。